投資信託を暴く

販売会社・投資信託会社等に勤務する仲間がチームで書いてます。

投信会社の人材と村社会

前回の記事では、

 

hatekinyu.hatenablog.com

 

営業担当者の業務について書いたつもりが、脱線して人材に関する言及が多くなったせいか、アクセス数も飛躍的に伸びたようでしたので、独立した記事にします。

なお、今回の主張も全て当局や投信各社の公式見解ではなく、業界を生きている当チームメンバーの独自見解ですので、目くじら立てて怒ったりしないでくださいね。

昔の投信会社とは

そもそも「名が知れている」日本の投信会社は、証券会社系、銀行系(ここでは旧都銀、旧長信銀、信託とします)、さらには存在感が希薄な保険会社系が多くを占めます。

投信会社は元々は証券会社の一部門でしたが、法律により分離独立。90年代に入って外資系や国内の銀行、保険会社でも関連会社として設立が認められて今に至るという歴史的経緯があります。

そして投信各社の人材は、主に証券会社出身者やその母体となる会社からの出向者がメインで、新卒採用は2000年代以前は、ごく一部の大手以外はほぼ無かったと思います。

 

そりゃそうですよね。

1998年に銀行窓販が始まる前の日本の投資信託というのは、口が悪い人に言わせれば「ゴミ箱」とか呼ばれていた時代もあったのですから。

 

私たちメンバーの古参が新卒で就職活動をしていた時代は、新卒採用のDMに投信会社からのDMが紛れ込んでいても、

野村證券投資信託委託?へ、投信?なにそれ?そんな訳のわからない会社に就職してどうすんの?普通にノムショーに入ればいいじゃん」

なんて時代でした。

東大・京大・一橋・早稲田・慶應から新卒入社するなんて言ったら「どうして?」と言われるような時代です。

そして、その母体会社から出向してくる人たちも・・・言わずもがなな方が多かった時代です。

 

ちなみにこの野村證券投資信託委託というのは、未だ日本の投信会社の方向性を決める会社といっても過言ではない今の野村アセットマネジメントです。

この野村アセットは就職偏差値というものがあれば、今や日銀や銀証の専門職コース等と並んで偏差値70台の新卒学歴エリートさんが行く会社になっていますよね。

 

会社

 

このように投信業界というのは、証券会社のノルマのために一部のお金持ちに商品をせっせとハメ込んでいた、本当にマニアックな業界だったわけです。

投信会社の変化の潮目

その状態から変化した潮目の一つが、1998年に「銀行窓販」が始まったことです。
折しもバブルが崩壊して経済は長期低迷の真っ只中、金融動乱の時代です。様々な銀行や証券会社が破綻したものでした。
銀行にとって不良債権が大きな問題の時代でした。銀行にとって収益の主な源泉はなんと言っても融資です。でも融資が伸びない、というかヘタな先には貸し出すと不良債権化してしまう。
銀行の預金はだぶついていきます。銀行の貸借対照表上では、預金は負債なのです。融資を伸ばさなければ銀行にとっては預金は意味が無いどころか預金者に利息を払い続けなければいけないのです。公的資金を注入されてもその資金をどうやって返済するのか?

そこで。

銀行にとって預金を収益の源泉に変化させるのです。

預金者が預金を解約し投資信託を購入すれば、預金という負債は減り役務収益(要は投信の販売手数料や信託報酬の中の販売会社の取り分です)という収益に変化する。すると、預金という負債は減るし、銀行の収益にもなるというわけです。

そしてそれに追い打ちをかけるのが、「貯蓄から投資」です。

大きな理由としては銀行窓販と同じようなことです。銀行等に預金・貯金が積み重なっても負債が蓄積されて、銀行経営が圧迫されるだけなのですから。

国民に対しては、老後の資金は自己責任で増やせというメッセージに等しいものです。

そりゃそうです。

高度経済成長期に国民皆年金を達成したものの、超高齢社会に向かう日本にとって、公的年金だけで老後が生活できるというのはだれが考えても早晩行き詰まるのは目に見えていたことです・・・それに、預金金利が8%とかだったこと自体が今考えると異常だっただけなんですけどね。


当局や業界の思惑はさておき、冷静かつ客観的に捉えると、しごく当たり前なことだったわけです。

そもそも日本における貯蓄率の高さは歴史を遡れば戦時中の戦費調達がきっかけという説もあります。戦時中は敵対する諸外国から借款(借金)なんてできませんからね。

どこの国もそうですが、国というのは時流によって定期的に国民に対してこのようなスローガンを流すことがあるようです。

この点、いくら大企業だからといって未だに確定給付の企業年金という存在があるのも、よくよく考えればおかしいものなんですけど。

2001年の秋口には、米国の401kを模した確定拠出年金制度もスタートしました。もはや今後高度成長は望むべくもない大企業の側も確定給付の企業年金を出し続けることはもうお手上げといった現れです。

ちなみにすでにこの頃にはインデックスファンドは各社に存在していました。ですが、業界も注目させるつもりもありませんでしたから、当然まだ投資家も注目するはずもありませんでした。

だって、それをたくさん買われると証券会社も銀行等も投信会社も儲からないのですから。

販売手数料3%程度、信託報酬年1%台後半以降なんて投信はザラにあったわけです。

ああ、今では信託報酬は販売管理費用(信託報酬)なんていうのでしたね。言葉遊びみたいなものですけど。

なお、このブログでは、投資家の皆さまが負担するコストは「手数料等」に統一します。販売手数料と信託報酬、信託報酬から3者に配分するやら、監査報酬、売買委託手数料、信託財産留保額やらなんて言葉は業界の勝手な都合なのですから。

Corporate Office

そんな背景から、投資信託が躍進し、投資信託の業界は急速に潤い始めたわけです。

さすがに現在はそのようなことはないですが、投資信託の仕組みを知らない投資家の皆さまに対して説明不足だと一見預金金利と見紛いがちな毎月決算(分配)という商品が活況を呈し始めたのもこの頃でした。

(大手限定ですが)今や投信会社は優秀な人材な巣窟

潤う業界の大手にはどこの業界もそうですが、優秀な人材が集まります。

上述の野村アセットに加え、大和アセット、日興アセット、三菱UFJ国際、アセマネONE、三井住友DSといった今や不動の大手6社も、新卒学歴エリートさんが就職する先になっています。

これを見ると、見事に2証券・3メガ・1信託の系列、つまり三井・三菱・住友・安田の財閥系、野村・大和の大手証券2社系が国内大手の投信会社になっています。

 

自ずと、投信協会加盟して公募投信を設定する90社程度・業界人口1万人程度の投信業界は、就活生や転職希望者に非常に人気がある業界となり、特に転職者にとっては、業界に入り込むのはかなりの高難度となりました。

そして、投信会社は国内中堅以下であっても他業界とはかけ離れた特殊な業務が多い。

先日の日経新聞には珍しくそこに切り込む記事がありました。先の回では当ブログでもそこに切り込みます。

その高給さも相まって業界外への転職は非常に稀です。

さらに、取引先は証券会社や銀行等で利害関係者が極めて少ない業界です。

ここがこの業界の「村社会」たるゆえんなのです。

村社会ゆえの閉鎖性

この村社会には村社会ゆえの生きづらさもまたあります。

例えばこういう例です。

一度悪い評判がついた人材は、村社会であるがゆえに、業界内で悪いレッテルが貼られ転職が困難になります。

「ああ、○○アセットの、あのどうしようも無い人ね」という人間は私たちのチームでも何人も共有されています。

もっとも、どの業界でもそうですが、「国内大手」と「国内中堅以下・外資」のカテゴリー間では人材の交流があまり無く、数少ない「国内大手」と「国内中堅以下・外資」のカテゴリー間の友人同士で挙がる話となります。

例えば当チームのメンバー間でも、「国内中堅以下・外資」カテゴリーのメンバーから(悪い意味で)風変わりな有名人が世話話の中で登場することがあります。それは「国内大手」カテゴリーのメンバーは誰も知らないという「国内中堅以下・外資」カテゴリー限定の局地的な有名人です。

「国内中堅以下・外資」カテゴリーには「国内大手」カテゴリーには存在し得ないような性質を持つ方が多く存在する気がします。そのような人であっても組織に存在できうることは、ちょっと羨ましいとも思います。

そのような方は王道の人材紹介会社経由での入社ではなく、大抵人づてで入社するケースが多いと聞きます。

よって販売会社の社員を通じてこういった人物の噂が広まるようです。

また、この業界に入る前に同じ証券会社や銀行等だった元同僚も多いので、その元同僚間でそのような人物の情報が交換されている感もあります。

さらにこの業界は、特に外国株を中心に、運用を外資系運用会社(「サブアドバイザー」略して「サブアド」と一般に呼ばれます)に外部委託しているケースが非常に多く彼ら経由でも情報交換が密にされているようです。

もっと言えば、ただでさえ人材の流動性が高いこの業界内の転職者を仲介する人材紹介会社もこの業界の人材を扱う会社は非常に限られています。

 

Business Office I

 

各社の客観的な人材感が参考になるサイトとまとめ

さて、より客観的に会社ごとの人材や文化はどうなんだろうと思う方もいるかもしれません。

その場合はこちらの有名なサイトで投信各社を検索すると良いでしょう。

https://www.vorkers.com/

このサイトは主に退職者が在籍していた企業を評価するサイトで一部のファンドマネージャーは投資先企業の定性評価にも使用していると言われています。

このサイトに書かれていることは概ね事実です。

時折明らかに関係者と思われる人間が悪い評判を打ち消したり、その逆の記述も見られる場合もありますが、全体的な論調から唐突で不自然な内容になっていますので、すぐに虚偽とわかります笑

 

今回の記事をまとめますと、投信会社という業界は、同業の資産運用会社間・同業の販売会社間・同業のサブアド間・同業の人材紹介会社間の4者間、さらにこれら4社間の垣根を超えて個々の人材の情報が筒抜け完全に村社会の様相を呈しています。

さらにここで村社会でよくありがちな例を紹介します。
ある大手が開発したファンドがブームになるとします。ブームと言っても、目新しいファンドは大抵大手6社のどこかが開発するわけです・・・もっと言えばその投資戦略はサブアドが販売力がある大手に提案する場合も多いものですけど。

すると追随するファンドが他の大手のみならず、ほとんど販売が期待できないような中堅以下からもポコポコ出てきます。
そして、それらのファンドの販売用資料を銀行や証券会社(今では一部のネット証券でもPDFで入手可能)で入手して比較すると・・・ファンドの名前とデザインが違うだけで、言いたいキャッチフレーズやグラフがほぼ同じなのです・・・まあ、当然アロケーションや上位の投資先が丸っきり同じというわけではないですけど。

それくらい、大手と中堅以下では実力差がある証左であると同時に、村社会という証左でもあります。

この例からも分かる通り、この業界は公募投信の数は6,000本程度もあるにもかかわらず、商品の差別化要素が非常に少ない。

かつて「通貨選択型」というファンドが一大ブームになりましたが、あのようなインパクトがあるファンドはやはり業界最大手が開発しました。

つまり、この業界は存在意義(最近ではこれを「パーパス」という言葉で格好よく表現するのが流行りですが、これも「CSR」同様にいつか消えていく言葉ですね。「ESG」もですね笑)が無い会社が非常に多いと言える業界です。

何より投資家の皆さまに負担して頂いているコスト(信託報酬、つまり投信会社にとっての収入)の下げ圧力は、当然ながら年々厳しくなってきています。

存在意義が無く、かつ、収入が減少し、世論からの要求や当局からの規制が強まるにつれその事務負担や収入減に耐えきれない会社は今後淘汰されゆく、つまり、この業界は今後規模が一層重要になります。

こんな難しいこと言わなくても、やらなきゃいけない業務が多くなって、実入りが少なくなるのに、今までと同じ人数で今まで通り攻めるだけの会社にお金を預けるのは危なっかしいのは自明ですよね笑

そして、生き残った大きな会社同士で商品性に依存しないサービスやマーケティングの重要性が増すのではと考えています。

と、ここまで書くと、これは日本のどの業界でも当たり前なことに気づきました笑。ようやくこの業界でも当たり前なことがこれから起きるのです。

よって、一度これら4者に悪い噂が広まるとその社員個人どころかその会社自体も挽回が厳しい、だからこの業界での投信会社の不沈は商品のパフォーマンスはもちろんですが、優秀さと誠実さを兼ね備えた社員がいかに多いかがカギとメンバー全員は感じます。

優秀さと誠実さは投資家の皆さまの大切なお金を運用する仕事ですから当然ですけど。

以上、脚注にも書きましたが、さまざまな意味で、この業界は今後より淘汰が進んでいくのではと、考えています。

今回はあくまで当チームの私見で投信会社の人材特性について書きました。

今の時期はメンバー全員がテレワークであるものの、忙しいので執筆が飛び飛びとなりますが、次回も期待してください。

次回は、業界のニュースをめぐる時事ネタを別の人間が担当する予定です。

ご期待ください。